佼成5月号「自分を思いやる」

「心が傷つきやすい時代」

 インターネットの世界で、匿名投稿によって人格を否定され、自死にまで追いこまれた事件もあり、SNSの運営体制が見直されています。また一方では、幼児虐待の報道や、人を苦しめるイジメやハラスメントにまつわる問題も減ることはなく、それらが被害者一人ひとりの心に多くの傷を残します。間接、直接問わず、心が傷つけられやすい時代、私たちは、どのように生きていったらよいのでしょうか。

 最近では「人にやさしく、自分にもやさしく」というあり方が必要だともいわれるようです。なぜなら、心に傷を負って苦しむ人が、以前よりずっとふえているからです。

 近年、たとえ失敗やトラブルが起きても、そのことで自分を責めないで、自分に思いやりをもって現象と向き合うセルフ・コンパッションという考え方が注目されています。セルフ・コンパッションとは、直訳すると「自分への思いやり」という意味で、「あるがままの自分」を肯定的に受け入れることができる心理状態のことを指します。困難な状況、ストレスを感じる場面で、多くの人は自己批判の思考を繰り返して、責めたり、より良く変わるよう求めたりします。その思考を、自分自身へいたわりと優しさに向けます。仏教でいう「慈悲」の心で、自己の尊厳を大事にして、現象をありのまま受けとめることで、心の健康を守るということです。

 

 それでは、自分を思いやり元気になるには、どのようにしたらよいのでしょうか。

自分が元気になることで

 自分を思いやるというのは、たとえば何か失敗したときでも、そのできごとを否定的に見ないで、「こういうことはだれにもあることなんだ」と大きな受けとめ方をしたり、「この経験は私の財産になる」と前向きにとらえたりして、一方的に自分を責めたり罰したりする感情に支配されないことです。そこにあるのは悪いことばかりではないと気がつけば、心は楽になるはずです。

 先日、人の姿から自分を省みることができ、私が「嫌だな」と思う同質のことを行っていた失敗に気づきました。「人の姿は、自分の鏡」を胸に刻み、「気づいたことを次に生かしていこう」と自分に声をかけて前向きにとらえました。翌日の地区法座で、誰もがその人を責める気持ちになる場面で、慈悲心が湧き相手を気遣う言葉が先に出てきたとき、「前日の気づきのお陰様」を感じ気持ちが明るくなりました。「自分を思いやる」というのは、つまるところ自己と冷静に向きあって唯一無二の自分と出会い、心の調和を保つことで、憂いが払われ、「私」が元気になることです。

 それでも、自分を元気にすればいいか戸惑う人に、「自分を元気づけるいちばんいい方法は、だれか他の人を元気づけてあげること」と教えてくださっています。思い悩んでいた人が、他者のつらい気持ちに寄り添っていたら、いつの間にか自分の悩みを忘れていたというように、利他は自利に通じ、自利を得た人は利他の行ないをせずにはいられないのです。ご家族の事で悩まれていた信者さんは、同じ支部の方のご家族がお亡くなりになられた事を通し、深い哀しみに寄り添われています。「もっと生きていてほしかった」の言葉にふれ、家族が一緒にいれることがどれ程幸せなことかと家族を愛おしく思える様になりました。信者さんのお陰様で大切なことに気づかれ、さらに人さまのために尽くされています。

 心が救われた人は元気になります。私たちのまわりに救いと魂の成長を求めている人がいればこそ、まず「自分」が明るく元気になって思いやりの輪を広げていくことが大切です。

 今月の目標は、①自分の心にネガティブな感情が湧いてきたら、自分を思いやることで憂いを払う②明るく元気に思いやりの輪を広げていくことです。共に元気に精進をさせていただきましょう。